| 「ゼオ! ねえ、ゼオ!」 わたしはゼオに声をかけた。うららかに晴れたある日のこと。昼の休憩時に偶然正宗がおらず、トビーがおらず、一人で手持ちぶさたにしているようすのゼオにだった。 わたしは不安な面もちでゼオの袖をちょっと引っ張って、周囲を見回して、それからゼオに向き直って、「いま、時間ある?」と尋ねた。 「相談したいことがあるの。」 「もちろん。」 ゼオは大きく頷いてくれた。 ゼオはわたしに対してよくいじめっこみたいになるけれど、実はけっこう優しくて頼りになるひとだった。だからこんなとき、相談したいことがあるとき、無意識のうちにでもつい頼ってしまう。 わたしは嬉しい気持ちで笑った。 「ありがとう。」 わたしはゼオの袖をちょっと引っ張ったまま歩いて、ゼオを近場の公園まで連れて行った。中にはベイの練習に励んでいる子供もいる。みんな自分のことに夢中で、わたしたちには見向きもしない。 わたしはゼオをベンチまで連れて行って、そこでぱっと手を離した。わたしがベンチに座るとゼオも何か察して隣に座ってくれた。 少し、どころか、かなりためらう。その前からずっとずっとずっとずっと悩んで結局答えを出して今ここにゼオと二人でいるわけだけれど、やっぱり今このときになってもためらってしまう。 わたしは無言で目にも見えない心にも感じられない何かと戦った。ゼオは黙って待っていてくれた。ゼオのその様子を見て、わたしはついに決心した。 おずおずと、一世一代の決心で、切り出す。 「……わたし、正宗のことが、好きみたい…」 「…………うん。」 ゼオはそうとだけ言っただけだった。わたしは思わず目を丸くしてしまった。 「おどろかないの?」 ゼオは調子を変えずに答えた。 「うん。だって、知ってたから。」 「いつから!?」 あまりに驚いたのでつい大きな声を出してしまった。いつになく冷静でしっかりしたようすのゼオがなんだか信じられない。 ゼオは静かに話す。 「ずっと前から。確信はなかったけどさ。でも、フェリス見てれば、何となく分かるよ。やっぱりそうだったんだな。」 「そっか…。」 「で、どうしたんだよ。改まって。」 わたしは膝の上で組んだ手を組み替えた。ほっぺが熱いのできっと赤くなっているんだろう。 「別に、どうってことはないんだけど。ただ、ゼオに聞いてほしくて。」 「おれに?」 「うん。ほかにこんなこと言えるひと、いないから…。」 「トビーがいるだろ。」 「トビーに言えると思う?」 わたしは実に真剣にゼオに尋ねた。ゼオはにくらしいくらいにさらりと答えた。 「おれに言うくらいなら。」 わたしは大きくかぶりを振った。 「そんなことないよ! ゼオには言えるけど、トビーには言えない。」 「え…?」 このときゼオが初めて表情を変えた。驚いたような表情になった。 わたしはわたしでほんとうのことをほんとうのままに言い切ってしまったので、あとはもう何も言えない。ただ言葉が空気に溶け込むのを待って、膝の上で組んだ手を組み替える。 ゼオがいったいどんな気持ちで何を考えたのかはわたしには分からないけれど、ゼオはすぐに表情を元に戻して、わたしの言葉を待ってくれているようだった。だからわたしは言えた。 「ねえ、ゼオ。わたし、どうしたらいいのかな。わからない。でも苦しいの。」 進んでも戻っても何も変わる気がしない。何をしなくてもただ苦しい。 「そうだなあ。あいつ、そういうとこ疎そうだからなあ。」 「うん。」 ゼオの真摯なことがよく分かる言葉にただ頷く。 「でも、別にフェリスのことが嫌いってわけじゃないだろ。深く考えずにさ、いつもどおりに話していけばいいんじゃないか?」 わたしは少し考える。正宗を脳裏に浮かべる。正宗はいつもベイブレードのことを考えている。そしてすぐにトビーのところに行く。 わたしは頷いた。 「うん。でも、正宗はトビーのことが大好きだもん。わたしの入る隙なんてないの。」 思ったままを素直に言うと、ゼオは少し言葉を表情を濁らせた。 「う、うーん……それは、ちょっと種類が違うんじゃないかな。あいつら、二人とも男だし。」 「そうなんだけど。でも、ゼオだってトビー好きでしょ。」 「ああ。友達として、ブレーダーとして、な。」 「わたしもトビーのこと好き。トビー良い子だもん。優しくて、明るくて、まっすぐで、ベイが強い。正宗がトビーに夢中になるの、凄く分かる。 分かるから、つらいの。わたしに勝ち目、ないから。」 言い終わるとため息が自然に出た。つらいこと苦しいことをゼオの前で吐き出して、それでもやっぱり気持ちは動かない。 ゼオが口を開く。ゆっくりと、ひとつひとつ丁寧に発言する。 「……ほら、正宗がさ。もうちょっと大人になれば、いつか、振り返ってもらえるかも。」 「うん。ありがとう。ゼオは優しいね。」 わたしはゼオに向けて笑顔を作った、つもりだった。うまくできているかは分からない。 「でもいいの。弱音を吐いてごめんね。励ましてくれてありがとう。 私はベイにがんばる正宗が好きだから、別に振り返ってもらえなくても、いいの。いいはずなんだけど、な。」 な、の部分で、わたしはまるでブランコから勢いをつけて降りるかのようにベンチから立ち上がった。一歩進んでゼオを見ないようにする。空を見上げて誰も見ないようにする。 ゼオの声が背中から聞こえた。 「…しょうがないさ。恋ってそういうもんだろうし。」 その発言にはわたしは特別思うことがあった。振り返って落ち着いたようすのゼオを見て、ちょっといたずらする気持ちで問いかける。 「ゼオは、誰かを好きになったことある?」 ゼオは良い人だ。ちょっとだけいじわるなところがあるけれど、ハンサムだし、背も高いし、優しいし、ベイにいっしょうけんめいだ。わたしはゼオのことが好きだ。 わたしは何の気なしに尋ねたのだけれど、尋ねた今となっては答えが非常に気になった。いったいどんな答えが返ってくるんだろう。実はガールフレンドがいたりとか、するのかな? すぐに答えは返ってきた。わたしの予想外のかたちで。 「内緒。」 「ええっ? ないしょ、って。」 わたしはちょっと困ってしまった。ゼオだったら、今このときだったら、答えてくれると思っていたのに。 ゼオは憎らしいくらい涼しい顔して、きれいにベンチから立ち上がった。 「フェリスが大きくなったら教えてやるよ。」 |