「おはよう正宗!」
「おはようトビー!」
「おはようゼオ!」

 今日はジムは午前中だけだった。帰り支度をしているときに、何やら連れ立って歩く三人を見かけた。
「あれ、三人でどこかに行くの? またあそこ?」
 わたしは一度も行ったことはないけれど、三人には三人だけの特別な練習場所があるらしい。ジムのない日はそこで競争しているのだとか。
「おう。今日こそオレが一番だぜ!」
「それはどうかな。おれだって負けてないぜ。」
「ぼくも譲らないからね。」
 口々に思ったことを言う三人はとても楽しそうである。そのようすがあまりにほほえましくて、わたしは思わず笑みをこぼした。
「ふふふ。楽しそうだね。いってらっしゃい。」
 そこで会話は終わり、三人はジムを出ていく、はずだった。けれどもトビーがその場に立ち止まった。
「ねえ、フェリスもたまには来てみないか? いっしょに競争しよう!」
「え……」
 予想だにしなかったトビーの申し出に、わたしの返事はいったんとどまる。その間に正宗とゼオが口を挟んだ。
「えー、勝負にならないだろ、フェリスじゃ。」
「いや、分からないぞ。意外と、バトルには弱くてもこういうところでは強かったりして。」
 おまえも負けるかもしれないな、と笑うゼオに対し、すなおに奮起してしまう正宗。正宗はわたしに向き直ってわたしをぴっと指さして言った。
「なにー!? フェリス、オレと勝負だ! 力の違いを見せつけてやる!」
「どうする、フェリス?」
 わたしが答えられないでいると、ここでもやっぱりトビーが助けてくれた。わたしの意志を尊重して尋ねてくれている。
 しばしの思案のあと、わたしは答えを出した。
「………わたしは、いいよ。ここで練習してる。」
「えーーっ!?」
 重なるゼオと正宗の声。そしてゼオが言った。
「なんだよ、付き合い悪いなあ。」
 わたしは用意しておいた言い訳をゼオに与えた。
「ごめんね。でも、今日のうちにやっておきたいメニューがあるから。誘ってくれてありがとう。」
「そういうことならしかたがないね。行こう、二人とも。」
 少しだけほんの少しだけ残念そうな表情を一時だけ見せたトビーが二人を促す。
「ちぇっ。つまんねーの!」
 実につまらなそうに舌打ちした正宗がトビーのあとに続いた。
 わたしはジムを出ようとする三人に向けて言った。言いながら、なんだか夢のようだと(すなわち、現実味がないと)感じた。
「よかったら、わたしがもっとうまくなったときに誘って。そのときにみんなに勝ってみせるから!」
 ゼオが振り返って笑う。
「ははっ、どーだか。おれたちだって今よりうまくなるもんな!」
 最後に、トビーが。
「でも先のことは分からないよ。それじゃフェリス、また明日!」

 なぜわたしが三人の申し出を断ったか、というと。
 申し出が嬉しくなかったわけでも、嬉しい申し出以上に優先すべき事項がわたしにあったわけでも、もちろんない。
 わたしは単純にわたしの意志で意図的に断ったのである。
 率直に言えば、あの三人の中になるべく混ざりたくなかったからだ。
 たくなかった、とすると語弊があるかもしれない。もちろん混ざりたかった。けれどもわたしにはその資格がないと思っていた。
 三人は三人でお互いに補い合っていて、その上でトライアングルはバランスを保っている。三人が三人だから三角形は美しくいられる。わたしはそのバランスを崩したくないのだ。
 と、いうのは建前で、単純に、わたしは三人との差を見せつけられるのが苦しかったのだった。
 三人にはわたしの知らない思い出がたくさんある。三人といるとわたしだけ場違いなのだということがよく分かる。
 だから、である。
 三人と話しているのは楽しかったし、楽しそうな三人を見ているのも好きだった。わたしは三人が大好きだ。三人と関われるのがとても嬉しい。
 だけど、それでも、どうしても、そんなわたしの気持ちとは違うところで、わたしは、三人といることのつらさを感じてしまうのだった。
「(わがままだね、わたしは。)」
 正宗とトビーとゼオの三人…かつてチームダンジョンとして大会に出て優勝した三人が三人であることを望んで、その上で部外者である自分もいっしょにいることを望んで、けれども途中で苦しくなって遠ざけようとする。
「(でも、どうしようもないんだもの。)」
 考えても考えても気持ちは変わらない。
 それでも、わたしは、これでいいかなと思っている。だって結局、わたしが三人を大好きなのに変わりはないのだから。

 次の日トビーは来なかった。
 確かにトビーの言うとおり、先のことは誰にも分からない。