| 「なあフェリス。おまえまだ正宗のこと好きか。」 あるとき突然ゼオに聞かれた。正宗がアメリカに戻り、わたしが正宗に会い、鋼銀河とバトルをした、そのことをゼオに話したときだった。 わたしは正宗に恋をしていた。どうしてか、決定的な理由なんてものはわたしにも誰にも分からないが(恋なんてそんなものである)、わたしはたくさんのそれらしい理由を探すことができた。 正宗は明るい。正宗は元気だ。正宗は優しい。正宗は親切だ。 いつも素直で正直で、誰に対してもまっすぐにぶつかっていくそんな正宗の姿は実に眩しかった。 正宗は暗くておとなしいわたしにも分け隔てなくふつうに接してくれた。だからわたしでも少しは明るくなれたとおもっている。 そして何よりどこより誰よりも、正宗は、わたしの一番最初のきっかけを作ってくれたひとなのだ。 正宗があのときわたしに声をかけて、ジムの扉を開けてくれたからこそ、わたしは今のわたしである。 もしかしたらそれは正宗でなくともよかったのかもしれない。あのとき正宗が来なかったとして、ほかの誰かがわたしに声をかけてくれていたのかもしれない。 それでもそれは正宗だった。わたしに声をかけてジムの扉を開けてくれたのは、ほかの誰でもない、正宗だったのである。 いつも元気で明るくて、ベイが大好きでベイが強い、ちょっとお調子者で無鉄砲な正宗。わたしはそんな正宗に恋をしていたのだ。 今このとき、ゼオに質問されたわたしは思う。今でもその気持ちは変わらないのかどうか。正宗がいなくなって戻って来てゼオだけがずっとここにいる、今このときでも。 ゼオはずっとずっとずっと苦しんでいるのだ。自分のこと、HDアカデミーのこと、トビーのこと、正宗のことで。 ゼオは正宗が大好きだった。でもゼオは正宗がいなくなって変わってしまった。いいやもしかしたら変化はずっとそこにあったのかもしれない、ただおろかなわたしが気づかなかっただけで。 ゼオは正宗のことを憎んでいる。憎んでいるだけでない。ゼオは正宗のことを嫌い、疎み、妬み、蔑んでいる。およそ人間に浮かぶすべての負の感情をゼオは正宗に向けている。 あんなにも仲の良かった二人だったのに、いつからかその関係は壊れてしまった。わたしにはそれがただ悲しい。 今、ここでわたしが正宗を好きと言えば、ゼオは喜ぶだろうか、怒るだろうか。正宗を嫌ったゼオはどんな気持ちになるだろうか。 「ええ、好きよ。」 悩んだ末にわたしはそう言った。わたしがずっと何度も恋愛相談を持ちかけていたゼオならば、わたしが今でも正宗のことが好きなことくらい簡単に分かるだろう。うそを言えばすぐに分かるだろう。うそを言えば怒るだろう。それにそもそもわたしはゼオにはほんとうのことばかり言おうって、そう決めていた。 けれどもわたしの口から離れた言葉にはなんだか現実味がない。わたしはほんとうに今でも正宗が好きなのだろうか。 好きでない、と言えばうそになる。それでも。 それでも、恋をするのはなんだか悪いことであるような気がしてならなかった。それは犯してはならない罪であり、罪人は誰かに裁かれなければならないのである。 それが誰か、は分からない。 |