| ゼオと出かける約束をした。 「デート、だよね……」 考えるだけで胸が熱くなって、どきどきした。 ほんとうはおしゃれがしたかったけれど、おしゃれってよく分からなかったし、服もたくさんは持っていなかったので、いつものかっこうで行くことにした。 それでもやっぱりいつもとちょっと違うことがしたかったから、髪の毛をおさげにしてみた。 「(ゼオ、喜んでくれるかな。)」 「ゼオ!」 「フェリス。早いな。」 約束した場所に行くと、ゼオはもう先に来てわたしを待っていた。 約束した待ち合わせの時間はまだずっと先だった。 「ゼオこそ。わたし、待っていようと思ったのに。」 「おれもだよ。」 互いに目を見合わせて、ちょっと照れくさくなって笑う。 「どうする、もう行くか?」 「うん。」 「…………。」 わたしが頷いて歩きだそうとしたのに、言い出しっぺのゼオがその場に立ったまま。じっとわたしを見ている。 「なあに? どうしたの、ゼオ。」 「いや………」 ゼオの視線はどうやらわたしの髪に向いているようだった。 「なに? もしかして、わたしのあたま、変?」 わたしは普段は髪の毛は伸ばしっぱなしだった。縛ると変にくせがついてしまっていやなのだ。 でも今日は縛ってきた。ゼオに会う日だから。 だけど、似合わなかったのだろうか。わたしは不安になって毛先をちょっといじった。 「いや、そんなことはないんだ! ただ」 「ただ? はっきり言ってよ。」 「かわいいな、って思って…」 恥ずかしいことを恥ずかしげもなく言ってしまったゼオに、わたしは硬直した。 ゼオははにかんでまだ言う。恥ずかしいことをまだ言うのである。 「……すげーかわいい。似合ってるよ、フェリス。」 「そんなの、反則! ずるいよ!」 わたしはゼオの恥ずかしい発言に被せるようにして言った。 「え?」 「ゼオのほうがずっとずっとかっこいいもん!」 「え……」 「…………。」 沈黙が流れる。 なんだか会話はそこでぶつ切れたみたいになって、わたしにはそれらを繋げることもままならず、結局少しの間のあと「行くか」と確認してきたゼオに頷いて歩きだした。 行った先は、町の少しはずれのほうにある露天の並ぶ通りだった。期間限定でお店が出ているらしくて、人通りもそこそこあって賑やかい。 「わー、かわいい!」 「これか?」 「ううんこっち。猫のほう。」 わたしたちが立ち止まったのはとある小物屋さんだ。主に動物をモデルにしたガラス細工の置物がところ狭しと並んでいるのを前にして、わたしはゼオと会話をする。 「猫、好きだな。」 「うん、大好き! かわいいなあ。」 特にわたしの目を引いたのは猫の置物だった。座っているのから寝ているのまでいろいろなポーズのものがあって、どれも猫らしくてとてもかわいい。猫の種類もさまざまで、中にはオセロットにそっくりな、山猫みたいなものまであった。 「おじさん、これちょうだい!」 そしてゼオが示したのはその山猫みたいなものだった。店主に声をかけて、わたしが止めるまもなくゼオはお金を払って品物を購入してしまう。 「えっ……」 「ほら。」 ゼオがわたしに品物を渡そうとするが、わたしはそれを遠慮した。 「いいよ、そんなの!」 「…いらなかったか?」 「そ、そんなわけじゃないの。でも、ゼオがわたしに買ってくれるなんて。だめだよ。」 少し残念そうな顔をするゼオに心が痛む。でもわたしだって退くわけにはいかない。 「別にいいよ。おれが好きでやってんだから。気にすんなって。」 「でも! わたし、ゼオにはゼオのために、お金を使ってほしいよ。わたしのことなんて考えてくれなくていい。」 「ばーか。」 「いたっ」 わたしはゼオにおでこを指で弾かれた。突然でびっくりして痛い。 ゼオは言った。 「おれが好きで、おれのために、おまえにプレゼントしたいと思っておまえに買ったんだ。つーか迷惑だったなら謝る。」 そうまで言われてしまっては、答えはひとつしかなかった。 「……そんなことないっ! ありがとう、ゼオ!」 やっぱりどこかまだ納得いかない気持ちはある。だけどゼオがほんとうに言ったとおりの気持ちでいるのなら、わたしはこれを受け取らないわけにはいかなかった。 それに、贈り物を喜ぶわたしがいるのも事実だった。猫の置物がかわいいのはもちろん、ゼオがわたしに何かをプレゼントしてくれたということがうれしかった。 「かわいい! どこに飾ろうかな。」 うれしい気持ちでわたしは小さな紙袋を抱きしめる。笑顔のままゼオを見上げたとき、わたしはその向こうに見たくもないものを見た。 正宗たちガンガンギャラクシーだった。よりにもよってこんなときに行き会うなんて。そりゃ、同じ国同じ町に滞在しているんだから、可能性はあって当然だけど。 突然ぴしりと固まってしまったわたしの視線を、ゼオは目だけで追う。追って追って追ったその先にいた一行を見て、ゼオは表情を変えなかった。 ゼオは腕を伸ばしてわたしの肩を掴んだ。わたしは抵抗することもなく、ただされるがままになって、ゼオに肩を引き寄せられる。さらにぎゅっと力を入れられて、わたしはゼオの胸に頬を寄せる形となった。 こんなことをしたって隠れることになんてならない。ただ一見すると実に仲が良くて主張の強い恋人同士みたいになって、わたしとゼオは正宗たち一行とは反対方向に歩きだした。 そう、反対方向である。それは元々わたしたちが歩いて行く方向だったから、単に店での買い物を終えたからまた歩き始めたに過ぎないのだが。 だけどそれはつまり、正宗たちとすれ違うということであった。通りは広いから正宗にわたしたちが見つかるとは限らない。数多くいる通行人のうちの二人として背景になってしまうかもしれない。それでも、見つかるかもしれない。正宗はいつだってどこでだってゼオを見つけることができた。 心臓がどきどき鳴り続ける。わたしは息をすることも許されないような気がして、上半身をぴくりとも動かさずに、ゼオに身を任せて歩いた。 ゼオはただ前だけを見ている。無表情に。 長い長い時間のあとやっとわたしはゼオから解放された。そのときはもう正宗たちはどこにも見当たらなかった。 「ぷっ…あはは!」 我慢していた笑いを解放したゼオはおかしくてたまらないようすだった。何が? わたしはゼオを見る。 「何か悪いことしてるみたいだな、おれら。」 「…そう、だね。」 「でも悪いことしてるとは思わないぜ。ただ、フェリスは正宗には見られたくなかっただろ。」 「………うん。」 実際そのとおりだった。ゼオがわたしの気持ちをほんとうに把握していたかはともかくとして。 わたしはゼオと歩いているところを正宗には見られたくなかった。 だけど、ゼオの今の行動がわたしの希望を叶えるほうに向かうかということもよく分からない。ゼオの腕に守られていれば、正宗がまっさきにわたしフェリスの存在に気づくことはなくても、ゼオはゼオとしてふつうに歩いていたのだから、じゃあ、その胸に引き寄せられる女の子は誰か? というところにまで意識が向けば、いとも簡単にそれがわたしだということが分かるだろう。 ゼオはいったいどうしたかったのだろう。わたしと歩いているところを正宗に見られたくなかった? それとも、まさか、正宗に見せつけたかった? |