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「みんなー、揃ったかー?」
 コーチがみんなを見回して、朝の恒例のミーティングタイムが始まった。とはいっても内容もやはり恒例で、特別に話すことなんてないのがいつものこと。今日も一つ二つ、昨日と変わり映えしない連絡事項を話したらすぐに解散、いつもの練習が始まる…と、思ったら、
「さて、今日はみんなに持ってきてもらわなければならないものがあるんだが。」
 コーチがそんなことを言い出した。わたしはもちろんわたしの近くの子たちもそんなの予想していなかったみたいで、え? なになに? と、ひそひそ声で話して小突き合ったりしている。
 わたしもちょっと考えてみたけれど、分からなかった。今日はそんなことより、コーチやみんなに早く報告したいことがあるのに!
 もどかしい思いを持て余していたらコーチが大声をあげた。
「バッカモーン! 昨日はスフィア360の本戦通過通知の届く日だろうが!」
 そこで場にいたみんなはそれぞれの反応を返す。コーチの大声に驚いたり、ああそうかって納得したりなどだ(わたしもこれだ)。そしてその中でいちばん多くを占めていたのは、そんなもの届いていないよ! という訴えだった。
「はい!」
 雑多な反応が混ざる中、よくとおる返事と共に白い両腕がぴんと真上に伸ばされた。その先には一枚の紙。それが何であるか、それが誰であるか、確かめる前にみんな分かった。トビーだ。
 やっぱりトビーは通過したんだな。わたしの右斜め後ろに立っていた子が呟いた。
「おお、トビーか。さすがだな。他には…」
「はいはいはーい! オレ! オレも! 紙は持ってきてないけど通った!」
 次に元気な返事と共に手を上げたのは正宗だった。証拠品のない主張を、誰も、両手を上げきれなかったわたしだって、疑わない。そしてコーチが満足げに頷く前に、正宗がぶんぶんと振り回す手をじゃまそうにのけてゼオが発言した。どうやらその前の正宗の返事に遮られていたみたいだった。
「お、おれも…」
「おお、正宗にゼオもか。…もういないか?」
 この時点で、ここダンジョンジムの三強が出揃ってしまっている。コーチがみんなに問いを投げるとついには静かな否定が返ってくる、と思ったら、ダンジョンジムのもう一つの仲良し三人組、オーエンとブレッドとブルースが名乗りを上げた。予想しなかった勝利者の存在に、その場にいたみんなから歓声が上がった。わたしは紙を持った両手を上げかけたのを慌てて引っ込めた。
 おーおまえらもかー! なんて、正宗が嬉しそうに言って真ん中のオーエンの肩をばしばしと叩いている。見ると、みんなの注目が三人に集まっている中で、コーチがちょっぴり涙ぐんでいる。コーチはみんなの視線が戻ってくる前にこっそり目元を腕で拭っていた。
「そうか…おまえたち、よくがんばったんだな! この結果は自分自身の努力の結果だ。本戦にいくことができなかった奴も、こいつらを見習ってこれからもがんばるんだぞ!」
「あっ…」
 思わず開けた口から意味のない声が漏れた。しまった。タイミングを狙っていたら完全に出遅れた。そうこうしているあいだにコーチが話をまとめてしまって、その場が解散になってしまいそうになる。そうなったらもう後はない、わたしは腹をくくって誰かの発言を遮って声を上げた。
「わたしも、持ってきましたっ!」
 両手に持った紙、本戦通過通知をしっかり掲げてみんなに示す。一歩も二歩も出遅れた報告に一瞬誰もが面食らったみたいだったけれど、すぐに正宗がわたしを見つけてくれた。
「フェリス!」
 そこからは大して時間を要さずに、やったなフェリスとかおめでとうとか近くや遠くの子から言われる。コーチが喜んでくれる。わたしは嬉しくて素直にこころから笑顔になって、わたしがんばりますとだけ告げた。

**

 それから数日後。スフィア360の本戦が行われる前日のことだった。
「おい、正宗。おまえに連絡が入っとるぞ。」
 パソコンの前に立ったコーチが正宗を呼んだ。シュートしようとしていた正宗はその手を引っ込めて、コーチに振り返る。
「オレに? 銀河か!?」
 怪訝そうな顔は一瞬だけのもので、すぐに分かって正宗はぱっと明るく笑った。そしてパソコンのほうに駆け寄る。何にも言わないのに、正宗と相対して同じくシュート直前だったトビーと、部屋の反対で鋼銀河の名前に耳聡く反応したゼオが、当然のように正宗の周りに集まっていた。わたしはそのようすをほほえましい思いで見つめていたけれども、それじたいは別にわたしに関係のあることではないので、すぐに自分の練習に戻った。
 正宗が世界大会に出場していたときの日本のチームメイト、鋼銀河たちはどうやら今、世界を巡って人探しをしているようだった。わたし自身が詳しく話を聞いたわけではないのでよくは分からないけれど、ほしのかけら? に選ばれた? れじぇんどぶれーだー? なるブレーダーを探しているとのこと。正宗たちの話から察するに、熱いベイ心と強さで誰でもそれになることができるらしい。三人は最近よく、めざせレジェンドブレーダー! とか言っている。わたしにはそういうスケールの大きい話はよく分からないけれど、強いブレーダーが熱いベイバトルの中でこそなれるというのなら、何だかすてきなものなんだろうなと感じていた。(正宗たち三人がなれたらいいのに)
 とはいえそんな壮大なお話は、ともかく自分の技能を上げてからである。そう思ってわたしがあれこれ試行錯誤しながらシュートの練習をしていたとき、ジムの扉が開いて珍しい人物が顔を出したのが分かった。
「翼!?」
 鋼銀河と同じく世界大会での正宗のチームメイト、大鳥翼である。今日はなんだか忙しい日だ。
 そんなことを思いながら翼を見つめていたら、その前に立っていたゼオと一瞬だけ目が合った。わたしは反射的に目をそらしてしまった。

 翼もスフィア360に出場するというので、その前哨戦とばかりに(たぶん新ベイを自慢する意味合いのほうが大きいだろうけど)トビーとゼオが翼とバトルをすることになった。世界大会出場経験のある選手とのバトルとあって、ジムにいたみんなの注意はそこに向く。良いバトルを見るのは良い勉強になるということで、練習の手を止めて観戦することをコーチも快く許してくれた。
 そして、そして、一方のわたしは、この上なく嬉しかった。ガンガンギャラクシーの大鳥翼と、トビーとゼオとのバトルが見られるなんて!
 良いバトルを見るのは良い勉強になる。それはまさにそのとおりだと、わたしも思う。でも、たとえそうでなくともわたしは、バトルを見るのが好きだった。飛び散る火花や耳をつんざく轟音、ブレーダーたちの熱いおもいにわたしは魅せられるのだ。
 特に翼の戦い方は、わたしにとって非常に魅力的だった。空翔ける鷲は気高く美しい。翼自身もふだんは実に冷静で、落ち着いたきれいなバトルをする。けれども、だけれども、鷲の本性は荒鷲で、翼は奥に情熱を秘めたひとだった。静かな水面の奥に潜んだ熱さが姿を現すそのときにこそ、わたしのこころは感動に震えた。
 まあ、何にせよ、わたしは翼の戦い方が好きなのだ。だからそのバトルが目の前で見られるというので、わたしはわくわくしてわくわくしてわくわくした。

「それじゃいくぜ! スリー!」
「ツー!」
「ワン!」
「ゴォー、シュー!!」
 まず最初は様子見、かな。三つのベイが相手の出方を伺うようにスタジアムを旋回している。(正宗はそれが気に入らないみたいで文句を言っている。)翼にとっては二つのベイは未知の存在だ、特に注意して戦略を練っているみたいだった。
 レイラーがアクイラの小手調べの攻撃をESトラックで受け流すと、そこにフォックスがアッパー攻撃をしかけた。相変わらずのナイス連携だ。持ち直したアクイラの反撃はTRトラックがやはり受け流す。うん。レイラーもフォックスも特殊なトラック持ちだから、攻撃の仕方も工夫しなきゃいけないんだよね。攻略には技が必要だ。初めて二人と戦う翼には少し厳しいだろう。(特にゼオは特殊なトラックの使い方がうまいから、難しい。)
 そしてそこで、レイラーの攻撃がアクイラに命中! 相変わらずのまったく先の読めない動きに、急所へ確実に当ててくる重い攻撃が次々と繰り出される。あまりに手強すぎて、自分が食らっていなくても痺れてしまう。(ちなみにこれをやるときのトビーは容赦がなくて怖い。)
 すると今度はゼオが名乗りをあげて戦いに突っ込んできた。トビーと華麗にバトンタッチをし、アクイラに連打攻撃をしかけていく。確かにこれは立て続けに食らうととてもバランスを保てない手強い攻撃だけれど、立て続けに食らいさえしなければとるに足らないものだ。まっすぐな軌道は読みやすいし、レイラーほどの驚異はわたしにとってはない。と思う。これをゼオに言ったら怒られるだろうけど。
 あまり長引かせてはまずいと踏んだのか、アクイラが猛攻の中から抜け出した。そう、これは連打のパターンさえ読んでしまえば難しいことではない。さすが翼だ、適格な判断ができている。そしてアクイラはフォックスの横をすり抜け、スタジアムの端を使って大きくジャンプする。おーっ! 荒鷲が飛んだ! わたしはつい興奮して両手を握った。
「必殺転技!」
 そしてそれに反撃するように、トビーもゼオもそれぞれ必殺転技を繰り出そうとする。え、ちょっと、この小さな建物内で必殺転技を使うのは、ちょっと、建物が、
 止めるべきか止めないべきかという選択肢でわたしの心が埋め尽くされたとき、奥へと続く扉が勢いよく開いた。


「まったく。コーチもひどいよなー。せっかく良いとこだったのに!」
「仕方ないよ。あれは白熱しすぎたぼくたちが悪いんだし…」
「ま、勝負は明日までお預けってことだな。楽しみだぜ!」
「じゃあね、正宗、トビー、ゼオ! また明日、会場で!」