スフィア360、本戦第二試合直前。選手控室にて。
ゼオとトビーは一足先に決勝戦への出場を決めていた。それでなおさら正宗のこころに火がともる。もちろん、わたしだって。この勝負、なんとしても勝ってみせる!
なーんて決意の炎を燃やしていたら、コーチが正宗の新ユニコルノを持ってやって来た。昨日はほとんど徹夜で作業していたみたいだった。わたしもまるで自分のことみたいにどきどきわくわくして、正宗の近くに覗きにゆく。そして思わず驚愕の声をあげてしまった。
「ああっ!」
大公開されたユニコルノは、ブリッツユニコルノ100RSFだった。もう一度言うと、ブリッツユニコルノ100RSFだった。ブリッツウィールだ。レイウィールじゃない。
わたしのオセロットはレイオセロットM14TSFだ。だからその、何というか、正宗のレイユニコルノとウィールがおそろいみたいで、そこのところがちょっとだけ嬉しかったりもしていたのだ。我ながら単純だなとは思うけれど。
でもその単純はわたしの真実だったので、どうしてもショックから逃れることはできないのだった。
「(おそろいじゃなくなっちゃった!)」
トビーとゼオがレイラーとフォックスに持ち換えてから、二人はスクリューウィールがおそろいで、正宗とわたしはレイウィールがおそろいだ! なんて、こっそり喜んでもいたのに。
でも、新しいユニコルノに出会えた正宗は凄く嬉しそうだった。
「これで、オレもレジェンドブレーダーの仲間入りだぜ!」
そう、そうだよね。正宗はブリッツのユニコルノでもっと強くなって凄いブレーダーになれるんだもんね。わたしも喜ばなくっちゃ! そう思ってわたしは正宗に声をかけた。
「そうだよね、正宗もレジェンドブレーダーだ!」
だけど、勇ましげに新ユニコルノを掲げる正宗に対して、日本の仲間たち(と、知らない少年)の反応は冷たかった。星のかけらに選ばれないとだめなんですよ、とか何とか言ってる。わたしにはその意味がよく分からなかったので、(どこか不審なものを感じて)おもしろくない気持ちで黙っていたけれど、一方の正宗は変わらず自信たっぷりに言うのだった。
「それなら問題ねぇ! ペガシスやレオーネにだって宿ったんだ。オレのユニコルノに宿らないわけないだろ!」
わたしはそれを聞いて何だか安心してしまった。やっぱり正宗は正宗だ。そんな正宗が言うのだから、正宗はきっとレジェンドブレーダーとやらにだってなれるに決まってる、なれたらいいな、って、わたしはこのとき心から思った。
「(たとえなれなくっても、あなたはいつでもわたしのナンバーワンだよ。)」
わたしは心からそう思った。
「ゴォー、シュート!!」
かけ声と共に、十一のベイがスタジアムにシュートされる。この特殊スタジアムは右も左も上も下も囲われた、スアジアムアウトを許さない形だ。当然、可能な戦い方も通常のスタジアムでのバトルとは違ってくる。わたしはほかのブレーダーと同様、まずはスタジアムの特性を掴むために、オセロットを縦横無尽に走らせた。
「(…いちばんの違いは、やはりスタジアムアウトがないことかしら。あとはこの、三百六十度回転を許す足場…。戦える舞台が広いから、戦略もより多彩になりうるわね。)」
立体的な戦いが、可能になるということだ。当然、下から攻撃するより上からのほうが威力が大きくなるだろう。しかし安定性をとるなら圧倒的に下側が有利で、故に場合に応じた立ち回りをしなければならない。とはいえそれは、このスタジアムに十分に慣れてから考えるべきこととも思われた。誰もかれもがこのスタジアムが初体験なのだ。最初のうちは、ただスタジアムアウトのないスタジアムとして、下半分でのみ戦っていても構わないだろう。
「(それに、この試合はバトルロイヤル形式だ。決勝に進めるのは三人。試合に勝ちたいだけなら適度に戦いを避け続けていれば、バランスタイプのオセロットならその中に残ることはできる。)」
ディフェンスも、スピードも、スタミナも、バランスも、オセロットは持ち合わせている。回避のみに徹すれば、この乱戦の中攻撃を避け続けることは容易だ。多少の攻撃があってもものともしない。そうしていれば、先にスタミナ切れを起こしてスリープアウトするのは、本気でぶつかり合っているアタックタイプやその他のベイだ。きっと、この試合に勝つだけなら難しくはない。
「(でも…)」
わたしのこころの中に、正宗やトビーやゼオ、今までに戦ってきたいろんなブレーダーの顔が浮かぶ。
「(でも、そういうことじゃないわよね、ベイバトルって!)」
わたしはオセロットを見つめて、そして走らせた。向かうはただ一つ、わたしが倒したいと願ってやまない相手のひとり、正宗のユニコルノだ。
「正宗、勝負よッ!」
「おう!」
高らかに告げると、正宗は笑顔でわたしを見返した。そしてユニコルノも走り出す。
『おーっと、フェリス選手! 正宗選手と突撃だぁーっ!』
猛スピードで二つのベイが走る。ほかの選手のベイのあいだをすり抜けながら。
「(まずは、最初の一撃!)」
ユニコルノと真正面からぶつかり合い、衝撃派と煙が舞い上がった。
「耐えろ、オセロット!」
オセロットはただまっすぐに攻撃したわけではなかった。ユニコルノと接触する直前に重心を下げ、守りの体勢に入ったのだ。これなら最初の一撃くらいなら、ユニコルノの強烈なアタックでも耐えることができる。
視界が晴れたときには二機のベイは接近し、互いの刃をぶつけて押し合っていた。わたしはすぐにオセロットを退かせ、ユニコルノから少しだけ距離を取らせる。競り合いで負けるのは明らかにバランスタイプのオセロットのほうだ。
すぐにユニコルノは追いかけてきた。持ち前の機動力を活かしたすばしこい動きで攻撃をしかけてくる。無慈悲にも繰り出される攻撃の嵐を、時には避け、時には受け流し、時には防御し、何とか決定打だけにはならないように耐える。攻撃は最大の防御ともいうべきか、こちらから攻撃する隙がまったく見つからなかった。
「どうだどうだ! フェリス、おまえの力はそんなもんか!?」
「くっ…。まだよ、見くびらないで! オセロット!!」
ユニコルノの連打攻撃の最後の一撃を、オセロットが最小限の動きでかわす。そこで見つけた隙に付け込もうとしたところで、
「あまいっ!!」
正宗のユニコルノが急停止、オセロットの攻撃範囲内から姿を消した。次の瞬間には背後に回り、一角獣の強烈な一撃がやってくる。
「ちっ…」
これは痛かった。たとえ大きく飛ばされようと、山猫の足はダメージを最小限に抑えて地を掴むことができる。けれども先の攻撃のダメージは変わらない。一角獣の角は確かに山猫をとらえ、オセロットのスタミナが大きく削られたことが見てとれた。
けれどもオセロットはバランスタイプ、元よりスタミナにも優れている。まだ戦いを続行することは可能だった。
すぐに体勢を立て直したところに、尚もユニコルノが向かってくる。そして少し重心を下げてからのアッパー攻撃だ。
「(…今だ!)」
わたしはあえてオセロットを高くは飛ばさずに、即座にユニコルノの背後に着地させた。ユニコルノが攻撃に入る前にこちらから機体をぶつけ、すぐに離す。そして間髪入れずにまた別の方向から。するとユニコルノが対抗して連続攻撃をしかけてきた。オセロットはつかず離れずの距離を保ち、ユニコルノを翻弄するように動いた。
「(真正面からぶつかっても、アタックタイプに敵うわけがない。なるべく連続して攻撃を繰り出させれば、一撃ごとのダメージは落ちる。それならオセロットにも耐えられる。そうしてスタミナを削ってゆけば、いつかはオセロットの一撃もユニコルノに通るようになる。ユニコルノが隙を見せたとき、そこを狙って急所に叩き込む!)」
攻撃の筋がまっすぐなのは正宗もゼオと同じだ。何度も何度もバトルを見て傾向は分析した。勝負の流れさえこっちのものにすれば、わたしの処理できるパターンに持ち込めば、絶対に勝てる!
軌道力ならオセロットだって負けていない。ユニコルノがいったん離れて体勢を立て直そうとすれば即座に動いて横から掬い上げるように叩いてやる。そしてその落下地点を狙って追撃。それくらいすれば直情的な正宗はすぐにかっとなって、大した構えも整っていないのに攻撃をしに舞い戻ってくる。一撃目だけは何とか受け流し、威力の落ちる二撃目以降はちょうどいい距離を保って受け流したり守ったりをする。時がくるまでは威力の高い攻撃を出させないよう、こまめに動いて相手を誘導するのだ。これはわたしの得意な戦法で、攻守ともに優れたバランスタイプのオセロットだからこそ可能な戦い方だ。
「くっそ、何なんだよ! 攻撃が効いてる気がしねぇ!」
「言ったでしょ、正宗に勝つために練習してたって! あなたの攻撃はわたしには効かない!」
本当はただ、正宗自身が決定打を放てないでいるだけなのだけれど。ブレーダーがこころを強く持つのもバトルには必要なことだ。
それでも、ブリッツユニコルノの連打攻撃はやはり威力が高い。そういつまでもこの状態は続けられない。ベイ同士が激しくぶつかり合い、火花を散らす。わたしはそれを注視した。額から冷や汗が流れて落ちる。まだだ、まだだ、そろそろだ、もうすぐだ! オセロットのスタミナが限界に近付いたころ、わたしは正宗が動き出すように誘った。
必殺、でなくともいい。ほんの少し改まった攻撃をするために、大きめに動いてくれれば。その隙を山猫の目は見逃さない。
「あー、もう! これで決めてやる!」
「(今だ!)」
ユニコルノが後ろに下がった。そして軌道力を活かしてすぐに攻撃に転じて向かってきたところを、オセロットはあえて動いて避ける。アタック直後のユニコルノは無防備だ、そこに一撃を叩き込めば、ユニコルノをスリープアウトさせることができるはず!
「──いっけえぇぇ!!」
「うおおぉぉぉ!!」
オセロットがユニコルノのブリッツウィールとぶつかり合った。攻撃は最大の防御とでも言うべきなのか、そう簡単にはダメージは通りきらない。回転する刃と刃のあいだから火花がきらきらと飛んで、わたしは喉をすり潰してしまいそうなほどに叫んで、正宗も叫んで、
オセロットのウィールが欠けて火花の中に飛び込んだのを、わたしは目にした。その直後にユニコルノにベイじたいを弾き返される。わたしのオセロットが飛んであっけなく落ちた。
わたしはぽかんと口を開けて、立ち尽くした。我に返ったのは、実況の声がわたしの鼓膜を揺らしたからだった。
『スリープアウト! フェリス選手、敗退!!』