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 ダンジョンジムに新入りがやってきた!
 ここはもともとあんまり大きなジムじゃないから、ゴールドバンクジムとかのジムに比べたら人が少ない。だから新入りがやってくることなんて滅多にない。(でもその代わり、一度入ったひとはそう簡単にはやめない、とってもアットホームで楽しいジムだ。)
 そういうわけで、新入り、それも外国の子が新しく入ったとあっては、みんなの盛り上がり方もなかなかのものになる。
 さらにそれが、ジムで一、二を争う腕前の正宗を負かしたブレーダーとあっては、なおさらだ。
 新入り、キングは正宗くらいに強くて、正宗みたいに明るくて、正宗みたいに元気だから、ジムにいるのは元々気の良い子たちばかりだし、すぐにみんなと打ち解けた。
 ところで、新入りが滅多にないダンジョンジムだけれど、どれくらいないかって言ったら、だいぶ前に入ったわたしが今までジムのいちばん後輩だったくらいだ。だから、つまり、わたしはキングにいちばん近い先輩だということだった。
 よって、キングがらみの面倒が、わたしに言いつけられることが多々あった。フェリス、キングにジムの案内をしてやれ。フェリス、キングに器具の使い方を説明してやれ。フェリス、キングに、…
 別にそれじたいは何ら構いやしないことで、むしろわたしにとって初めての後輩ができたなんてとてもとても嬉しいことだったくらいなんだけど。
「おーい、正宗ーっ! バトルしようぜバトル!」
 当の本人がこれなのだ。
「うるせーな、オレはいまシャドウシュートの最中なんだよ!」
「あぁ? まだんなことやってんのかよ?」
「き、キング…」
「そんなことってなんだよ! 大切な練習なんだぞ!」
「そーいう細かいことはいいんだよ! 男ならバトルだ、バトル!」
「一人でやってろ! オレは練習を続けるからな!」
「怖いのか?」
「なにッ!?」
「ま、まさむ…」
「怖いんだろ、またオレさまに負けるのが。」
「んなわけねぇだろ! いいぜ、上等だオラ! その代わり、オレが勝ったらてめーもシャドウシュート五百本だから」
 コーチが二人にげんこつをお見舞いした。あまりにがつんといったものだから、お星様が飛んだようにさえ見えた。
「こら、おまえら! キングを呼びに行ったフェリスがなかなか帰ってこんから何事かと思ったら、また揉めとったのか!」
 コーチが正宗とキングを叱りつけるが、それに対して二人が同時に口答えした。
「だってこいつが」
「キング!」
 しかしコーチはそれすらも許さない。キングに向けて声を荒げる。
「おまえはこのジムのメンバーなんだ、決まりを破ってバトルばかりやろうとするな!」
「だって」
 キングもさすがにコーチには強く出られないようすだ。怒るコーチと怒られるキングの構図を見て、正宗がざまみろと言わんばかりに舌を出
「正宗!」
 そうとしたところで、コーチの怒りの矛先は正宗に変わった。
「おまえが売り言葉に買い言葉で返すからこうなるんだ!」
「えぇ!?」
 そして今度はキングが、コーチの背後から正宗に舌を出すのだった。まったく似たもの同士である。
「あ、あのう…」
 一方のわたしはおろおろしっぱなしだった。コーチに言われてキングを呼びに来た、まではいいものの、任務完了することもできずにコーチ本人がお出ましになるしまつだ。この場で棒立ちを続ければよいのか練習に戻ればよいのか、つまりはどうすればよいのかが分からなかった。
「面倒な子供が増えたって感じだね。」
「あ、二人とも…」
 背後からの声に顔だけ振り向ければトビーがいた。隣にゼオもいるようだった。
「精神年齢が近いからな、気が合うんだろ。迷惑なもんだぜ。」
「フェリスも大変だね。」
「うん…。後輩ができたのは、うれしいんだけど。」
 うれしいんだけど。トビーの言うとおり、大変なのだ。わたしがこれからを思いやってため息をついていると、突然のコーチからの呼び出しがかかった。
「フェリス!」
「はいぃっ!?」
 別にわたしが怒られているわけでもないのに、コーチに大声で指名されたものだから思わずオーバーな返事をして直立不動の姿勢を取ってしまった。
「キングが練習をさぼらないように付き添ってやれ。」
 無情にもそう言って、コーチがキングの背中をばしっと叩いてこちらに示してきた。わたしにはあまりに荷が重すぎる。
「そ、そんなぁ…」
「がんばってね。」
 思わず肩を落とすと、トビーが笑顔で手を振った。かわいい顔して言うことがえげつない。
「薄情ものぉ…」
 わたしはキングの元に歩み寄った。

「…………。」
「…………。」
「これ、どうやって使うんだっけ?」
「へっ!?」
 いきなり声をかけられたのでわたしは驚いた。
「これ。」
 キングが指で示したのはシュートの練習をするための器具だった。すぐに落ち着きを取り戻して、わたしは先輩らしく解説してやる。
「あ、ああ…。これはね、いつもどおりにシュートとして、あの的に当てるの。正確なシュートをするための練習よ。」
 案の定キングは嫌な顔をした。
「げーっ、めんどくせぇ。んなもんテキトーでいいじゃねぇかよ、テキトーで。」
「だめよ。良いバトルは良いシュートから始まるの。シュートでバトル中のスタミナもパワーも変わってくるんだから。」
「…………。」
 不本意とはいえ、コーチからキングの監視を命じられた身だ。わたしにはこのダンジョンジムでの練習をキングにしっかり身につけさせるという義務がある。なるべく分かりやすくていねいに説明した、つもりだったが、肝心のキングが仏頂面でわたしをにらんでくるのだった。
「な、なに」
 思わずひるんでしまったけど、先輩なのでそんなことは気取らせないようにして尋ねる。キングは答えた。
「おまえ、暗い上に口うるさいのな。」
 そんなっ!?
「く、くら……」
 くらい…口うるさい…なんて。分かっていたことだけれど、こうして面と向かって正宗以外のひとに言われるのは初めてだった。しかもキングとは出会って間もないものだから、そんな人に言われてしまってはよけいにショックである。わたしはめまいすら感じた。
「わ、わるかったわね…」
「なあ、おまえは強いのか?」
 しかしキングはそんなことにはお構いなしに、ずけずけとわたしに聞いてくるのだった。このデリカシーのなさ、誰かに似てる。誰かなんて確かめるまでもない。
 わたしはちょっとだけ面倒になってぶっきらぼうに答えた。
「……別に、特には。正宗にこの前負けたよ。」
「ふーん。」
 キングはどうでもよさそうな返事をしてきた。自分から聞いたくせに! 理不尽だと思ったわたしは、きっとキングが興味を示すであろう話題を考えて見つけてキングに振った。
「で、でも、正宗はわたしなんかよりずっと強いんだからね!」
「知ってる。」
 即座に返ってきたのは予想だにしない答えだった。なんとさらに、(それじたいは確かにわたしの狙うところではあったのだけれど)キングは正宗のことで目をきらきらさせて言うのだった。
「あいつは強い! オレはああいうバトルがもっとしたくてこのジムに入ったんだ!」
「…キング……」
 そしてシューターにベイをセットして、練習器具に向かってシュートする。それは雑なもので、あまり精度は良くない。
「こんな地味な練習するためじゃねぇ!」
 しかし、ベイをセットしてからシュートし、ベイを手元に引き戻すまでの一連の動作は、実によく洗練されたものだった。流れるように行われた動きには無駄がない。キングの実力を伺わせる。
 返す言葉が見つからずにわたしが黙ってキングを見つめていると、キングはこちらに振り向いた。やはり目が輝いている。そしてそのままわたしに詰め寄ってきた。
「だから、な、な! バトろうぜ! おまえでもいい!」
「……だめ。」
 わたしはたじろぎながらもなんとかそれだけ言った。キングは「暗くて口うるさい上に、ケチだな!」とか言ってきた。わたしはもうそれに構ってなんてあげない。
 言いようのない不安と不満がわたしのこころを浸食していた。
「(なによ、あとからきたくせに、知ったふうな口聞いて。わたしのほうが正宗のこと、よく知ってるんだから!)」

**

 ある日、トビーとゼオが二人で話をしていた。最近、この二人が二人だけでセットでいるのをよく見かける。理由は簡単、キングが正宗にひっつきっぱなしだからだ。今日も二人でどっちが先に家につくかとか言いながら走って出て行った。
「やあ、フェリス。今から帰りかい?」
「うん。二人も?」
 最初にトビーに声をかけられて、受け答えをして、何となく会話をしながら動いていたら、三人でいっしょに帰るような形になってしまっていた。別にそれじたいは構わないのだけど、ゼオが。わたしはなるべくゼオのほうは見ないようにして、あとはいつもどおりを装った。
「また鋼銀河から連絡が入ったらしくてさぁ。」
 ゼオがおもしろくなさげに言う。鋼銀河の話をするときはいつもこうだ。
「正宗のユニコルノが冬の星座のベイだから、レジェンドブレーダーの可能性が高いんだと。覚醒させるために、あいつをでかい大会に招待してきやがった。」
「そ、そうなんだ!」
 どうやらわたしの知らないところでいろいろと事が進んでいたらしい。よくは分からないけれど、一度はレジェンドブレーダーになれなかった正宗にも、もう一度そのチャンスがあるらしい。それはとってもおめでたいことなんだろう。
「レジェンドブレーダーは、あとは金星のベイを持つブレーダーと、冬の星座のベイを持つブレーダーだけらしい。…ぼくたちは残念だったね。」
 トビーのレイラーもゼオのフォックスも、夏の星座のベイだ。つまり、二人がレジェンドブレーダーとして目覚めることは有り得ないのだ。
「ちぇっ。世知辛い世の中だよなあ。」
 トビーは実際に残念そうな顔をしたしゼオもそう言ってぼやいたけれど、正直なところ、わたしはもうレジェンドブレーダーなんてどうでもいいと思っていた。とても口に出しては言えないけれど。
 だって、レジェンドブレーダーが何だと言うのだ。星のかけらが何だと言うのだ。そんなのなくたって、わたしと正宗はとても熱いバトルをすることができたのだ。あのバトル、トビーもゼオも、見てくれたでしょう? レジェンドブレーダーになんてならなくたっていいんだよ!
 …正宗は、レジェンドブレーダーに負けちゃったけど。でも、そんなの偶然だもん。ただキングっていうブレーダーが十分に強くて、そのときのバトルに勝ったってだけ。
 だからわたしはこのままでいいと思っていた。正宗がその「でかい大会」とやらに鋼銀河たちの頼みで行く必要もないと本当は思っていた。
「それでその、大きい大会なんだけど。」
 わたしは二人に声をかけた。おそるおそる声に出して尋ねる。
「……正宗と、キングで、出るつもりなの?」
 トビーは笑顔を作って答えた。
「二人ではしゃいでたよ。オレが勝つんだ! いいやオレだ! ってね。」
「…………。」
 それは予想どおりのことだった。わたしは黙って納得した。
「もちろんぼくたちも行くよ。大きな大会を前にして、黙ってるなんてことできないからね!」
 それを聞いて、わたしは真っ先には安心した。したのだけれど、その後ろからやってきたのは不安だった。そして不安が焦りを生む。
「そっか…。ね、ねえ、」
 言葉を選ぶ余裕がなかった。素直な気持ちが言葉に出た。
「わたしもその大会に、出てもいいかなあ。」
 すると、トビーとゼオは驚いたような顔をした。そのあとに笑ってこう言った。
「なに言ってんだよ、当たり前だろ!」
「ライバルは多いにこしたことはないからね。正宗たちに一泡吹かせてやろう!」
 二人の最初の反応であおられてきたわたしの不安は、次の言葉でその表面だけはさらわれた、ような気がした。
「…うん!」
 わたしは元気いっぱいに頷いたつもりだけれど、自信がない。やっぱり不安で不安でたまらない。何が、って聞かれたら、とてもばかばかしくて小さなことしか答えられないんだけど。わたしにとっては大切なこと。