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 ふもとに病院があるとかで、わたしはそこまで連れていかれた。
 足に、板みたいなものといっしょに包帯を巻かれた。少なくとも今日は安静にして、これから一週間は激しい運動は避けるようにとのことだった。松葉杖を渡された。
 わたしはそんなことより大会のことのほうが気になって仕方がなかった。わたしをここに連れてきた大人に大会へ戻らせてくれと言うと、決勝が始まるので既にみんなは頂上に集まっており、車でそこまで行くのは無理だし一機しかないヘリは大会の実況のために使われているしで、わたしにはここで結果の報告を待つしかできないと返ってきた。
「(そ、そんな!)」
 あまりにあんまりである。
 けれどもたった一つだけ朗報があって、決勝を戦うことになった二人のブレーダーのうち一人は正宗であるらしかった。正宗が決勝に! わたしはそれを聞いてとても喜んだ。さすがは正宗だ。
 きっと次に舞い込むのはレジェンドブレーダーになった優勝報告だろう。わたしはそう思ってベッドの中で待機することにした。小さな不安を抱きながら。
 しかしてその不安は的中した。


「ようフェリス。」
「え?」
 正宗はご飯を食べていた。
 夜になって、正宗たち一行がしばらく滞在するというホテルに行くと、正宗は部屋でご飯を食べている最中だった。トビーにゼオ、キングもいる。
 別にそれじたいは何らおかしなことではない、むしろまったく健全なことなのだけれど、正宗のようすがあまりにいつもどおり過ぎたのだ。ちょっと味のきつそうなおかずを好んで食べているところとか、とりあえず食べ過ぎなところとか、キングとエビフライの取り合いになっているところとか(実に行儀が悪い)。
 わたしが松葉杖でからだを支えながらぽかんとして立っていると、ゼオの隣に座るトビーが気を利かせて「ここに座るといいよ」と言って、ゼオと反対側の隣の席を開けてくれた。
「あ、ありがとう。」
 トビーもゼオもいつもどおりだった。席についてから改めて正宗を観察するとやっぱりいつもどおりで、もしかしたら無理しているのかもしれないという可能性がよぎったけれど、そこを踏まえて見つめなおしてもやっぱりいつもどおりに過ぎないのだった。
 あれからわたしは正宗が負けたとの報告を受けた。そしてその後の事のてんまつも。やはり正宗はレジェンドブレーダーになることはできずに、レジェンドブレーダーであるというクリスに負けたのだ!
 わたしはもう、レジェンドブレーダーがどうとかいうことにはこだわってはいないつもりだった。むしろレジェンドブレーダーとそれにまつわるシステムに不信感さえ抱いていた。だけど、だけど、正宗は違う。正宗はとてもまっすぐな子で、強くてかっこいいレジェンドブレーダーになろうと練習をいつも以上にがんばっていたし、鋼銀河からベイスター島チャンピオンシップへの招待がきたときには心から喜んでいた。大切な仲間である鋼銀河が自分を頼りにしてくれるということが、何よりも正宗には嬉しかったのである。
 それが、こんな結果になってしまって、正宗のこころが傷つかないはずがない。わたしはそれを覚悟してこのホテルまでやって来た。正宗が落ち込んでいたら、わたしが元気づけてあげられるようにと、あれこれ考えていたのに!
 何でかな。何でかな。正宗は強い子だから、自分自身の力で立ち直ってそれで走り出していたって、何らおかしくはないんだけど。わたしの疑問は止まらない。
「あっ、てめー! キング! それはオレが狙ってたやつだぞ!」
「んなもん知らねーよ。ほしけりゃ最初っからとっとけっつーの。」
「皿に貯めてたらてめーが文句言ってきたんだろーが!」
「ケチくせーなぁ。」
「どっちが!」
 たった一つのエビフライでずいぶんと揉めるものである。こんなこと、ジムにいればしょっちゅうではあったのだが。
「二人とも、食事中にあまり好ましいことじゃないよ。欲しければまた頼んであげるから。」
「オレはこれを狙ってたんだ!」
「代わりなんてあるか!」
 トビーの言葉にほぼ同時に返す言葉はそっくりの内容だ。二人はとっても仲良しなのだ。トビーは苦笑した。
 わたしがちびちびと食事をとっていると、トビーの隣からゼオが声をかけてきた。
「おいフェリス。足はもう大丈夫なのか?」
「あ、うん。」
 反射的に頷いたあと、一拍遅れてどきりとする。だってもうずっと長いあいだ、ゼオを避けて距離をとって接してきたのだ。今さらはいそうですかといってすぐに近づけはしない。
 だけど、前までのように見えない先の未来にうんざりすることはもうなかった。わたしは少しだけ気をつけて、自然にゼオに返した。
「骨は折れてない、ねんざだって言われた。しばらくベイバトルは禁止されちゃったけど、一週間もすればよくなるって。」
「そうか。よかった。」
「…………。」
 隣のトビーがわたしを見た。わたしはトビーをちょっと見てほほえんだ。それだけで分かってくれたみたいで、トビーもにこりと笑い返してきた。
 何にも分かっていないのはやっぱりこの二人、正宗とキングで、
「えっ、フェリス、けがしたのか!」
「それで決勝戦見に来なかったんだな!」
 とか何とか言ってくるのである。
「もしかしてゼオにやられたのか?」
 と聞いてきたのは正宗。わたしは大きく首を振る。
「違うよ! ゼオはわたしを助けてくれたの。勝負には負けちゃったけどね。」
「ふーん、そっか。でも、ケガもひどいことにならなかったならよかったな! バトル禁止なのはきついけど。」
「うん…。」
「あっ、そうだ、オレ、決勝戦に出たんだぜ!」
 ここで、わたしが聞きたくても触れられなかった話題を正宗は自分から持ち出してしまった。わたしはまずは驚いて、そして次にそれだけ正宗のこころが落ち着いているのだという事実を認識した。それは良いことであるはずなのに、わたしのこころは安らがない。
「大会のひとから聞いたよ。おめでとう、正宗。」
「おう! …負けちまったけどな。」
「…………。」
 わたしが何と返せばよいのか迷っていると、横からキングが正宗を小突いた。
「またレジェンドブレーダーに負けたんだよな、おまえ。」
「うるせー!」
 わたしはぎょっとした。なぜならキングの言ったことこそが、今一番正宗にとってつつかれたくないことだと思っていたからだ。それをキングは大昔のささいな失敗でもからかうかのように自然に言ってのけてしまった。
 正宗は、本気で怒る、悲しむ、ということはもちろんせずに、いつものじゃれあいみたいにキングに返す。
「そうやって偉そうに言ってられるのも今のうちだからな、見てろよ!」
「おーおー、楽しみにしてるぜ!」
 またもここで二人の空気を作り上げてしまった正宗とキングに、トビーが冷静に声をかける。
「二人とも、仲が良いのは結構なことだけどね。早く食べないと朝になっちゃうよ。」
「よくねーよ!」
 またも二人の返事が重なった。今度はまるで同じ言葉だった。
「あのなトビー。」
 改まったようすでキングが話す。
「仲が良いっていうのは、トビーとゼオみたいののことを言うんだぜ。こいつはただオレに突っかかってくるだけ。」
「ははは…。」
 わたしは笑うトビーの陰からゼオの表情をちらりと伺った。どんな反応をするかが気になったからだ。
 ゼオも笑っていた。大人びた笑い方だった。
「そういうのも仲良しって言うんだよ、お子ちゃま。」
「誰がお子ちゃまだ、誰が!」
 憤慨するキングの横で正宗がぽつりと一言。
「おまえのことだよ。」
「んだと!?」
 わたしは賑やかな食事風景の端っこで、自分のぶんのエビフライをしっぽから少しずつ食べていった。身が引き締まっていてとてもおいしい。だけど何だかおいしくない。
 明るい食卓はとても楽しい。だけどぜんぜん楽しくない。
 誰も何も、はっきりと言葉にはしなかった。それでも、話す二人のようす、トビーやゼオのふるまいを見ていたら、何となく察してしまった。
 正宗が立ち直れたのはキングのおかげだ、きっと。