呼び鈴が鳴った。
いったいここに誰が訪ねてくるというのだろう。誰か弟の友達だろうか? 何もない家の中にこもっていても特にすることのない彼らはわたしよりもずっと活動的で、何か新しいもの求めてすぐ外へ行く。その中でできた友人がわざわざ家まで訪ねることなど、まれにでもなかった。実際今だって弟たちは、外へ行き外で友に会い外で遊んでいるのだろう。
家でぼんやりと家計簿を眺めていた(これもわたしの仕事のひとつである)わたしは、来客を迎えるためにやはりぼんやりと立ち上がった。
何か悪い報せでもあるのだろうか。誰か怪しい盗賊まがいの人だろうか。とりとめのない可能性がわたしの脳裏をめまぐるしく過ぎていく。そのときわたしの中には、わたしの大好きなひとたちのことなどみじんもなかった。
だから、玄関扉を開けたところにいたのが正宗とゼオとトビーにそっくりな銀髪の男の子だったとき、驚くことすらできずに呆然としてしまった。
「……あれ…?」
「フェリス! 帰って来たぜ!」
正宗の顔したひとが正宗の声して正宗の表情で言う。
「心配かけてごめんよ。ほら、ぼくはもう大丈夫だから。」
そのひとはトビーではないはずだったけれど、声も表情もトビーのものだった。
「…………。よう、フェリス。久しぶりだな。」
そしてゼオだった。紛れもなくゼオだった。わたしはようやく思い当たった。
「みんな…!」
驚きが緩やかにわたしの心に浮かぶ。三人が三人として三人でわたしの目の前に立っている。確かにゼオは少ししかめた表情をしていたけれど、それはきっと三人といることが理由ではない。二度と会いたくないと言ったわたしに会うことが気まずい、あくまでその範囲で生まれる表情だ。ゼオはちゃんと三人の中にいる。
「ちゃんと約束守ったぜ! すげーだろ、オレ。」
正宗は得意そうな表情で、目元に涙を浮かべながらきっと口元には笑みすら浮かんでいたのだろうわたしを見て、言ってみせた。
「…守ってないじゃない……トビー色ちがうし…」
混乱する中で、口から出てきたのはそんな言葉だった。昔よく言い合ったみたいな冗談を言いたかったのかもしれないけれど声が震えた。うまく言葉にならない。
正宗は笑った。
「でもトビーはトビーだ! 分かってるだろ、ちゃんと。」
「うん…」
がんばって抑えた涙もついには溢れた。わたしは泣きながら声を出す。
「まさむね……ほんとに帰って来てくれたの……」
だから正宗はちゃんと約束を守ってくれたのだ。それも、トビーもゼオも助けて。
正宗は正宗のままなのに、トビーもゼオも二人のままで、また前みたいに仲良くなって、前とはちょっと違ったところもあるけれど、三人が三人で帰って来た。
わたしが勝手に思っていたことなんてぜんぶ外れてしまった。これがベイバトルでだったら悔しくってじだんだ踏んでしまうところだけれど、今はうれしくてうれしくてたまらない。
いろんなことがつらかったはずなのに。正宗にもトビーにもゼオにも顔向けできないはずだったのに。
すべて悲しみが色褪せてしまうくらいに今のわたしは嬉しかった。
「…言おうと思ってたこと、ぜんぶ吹き飛んじゃった……!」
「泣くなよフェリス! トビーが元気になって、嬉しいのは分かるけどさ。」
「うん…」
違う。正宗は何にも分かっていない。でも今はそれすらもどうでもよかった。正宗はそんなだから正宗なのだ。
「…まさむねぇ……っ!」
わたしはがまんならなくなって、正宗のところへ駆け寄った。正宗の両手をとってすがって泣く。
そんなわたしをお兄さんぶって見て、分かったように正宗は言うのだった。
「いろいろあったけどさ。ここからオレたちはまた始めていけると思うんだ。チームダンジョンとして再始動だぜ!」
「うん…うん…!」
それなら。ほのかな思いがわたしのこころを掠める。
それなら、わたしの恋も、また始められるだろうか。
一度は捨てて一度は終わらせた、安くてちっぽけでおろかな恋心だけど。もう一度、やり直しても許されるだろうか。
そんな思いはわたしの中を巡るとも巡らなかった。わたしはただ正宗にすがりついて、気づいたときには涙を流しながら言っていた。
「正宗…! 正宗。わたし、正宗のことが好き。大好き。一番好き!」
「おう。オレもフェリスのこと好きだぜ!」
言葉上は愛の告白に対するオーケーの返事をもらったわたしは一瞬だけ涙も止めてきょとんとした。正宗のまぶしい笑顔を見る。すぐに理解する。わたしはこころから笑った。
「あは。そうだよね。うん。」
それでこそ正宗だ。わたしはそんな正宗が大好きなのだ。
わたしの予想をぜんぶ覆してぜんぶ取り戻して帰って来てくれた、わたしの大好きなひと。わたしだけのナンバーワン。