「よっ、よっ、よっ…と!」
 わたしは運んできた箱を積んであった箱の上にさらに積んだ。
 これはわたしが最近始めた、家事とは別の仕事である。配達する荷物の仕分け作業だ。
 食費を削ったり内職したりするだけじゃあまりに効率が悪かったので、ベイの特訓で鍛えた体力を活かせる仕事をやることにしたのだった。
 今日の分を終えるとお給料をもらって家に帰る。そこからまた内職だ。
 きっと前までのわたしだったら、新しい仕事、それも体力の必要なつらい仕事を始めることはなかなかできなかっただろう。でも今のわたしは前とは違う。勇気を出して前に踏み出すことができる。
 帰る途中にダンジョンジムがあるのだけれど、わたしはそこを通らないように回り道して帰った。前を通ればまたあの声に引き寄せられてしまうような気がしていた。
 通えるようになるまでは、がまん、がまんだ。好きなことのための忍耐なのだからつらくはない。
 つらくはない。
 うそだ。つらい。
「(早く行きたいなあ……。)」
 どうしても寂しくなってしまうときがある。何にしろしかたがないのは分かっている。だからよけいにやるせない。
 でもそんなときはベイを手にすると決めている。ジムに行かなくてもベイの修行はできるししなければならない。油断しているとすぐにみんなに置いて行かれてしまう。
 わたしは家に帰ってお金を置いて、少しだけと時間を決めてまた外に出た。
 広く開けた場所を目的地に歩いた。気づいたら走っていた。そしてあるとき突然、わたしの左耳を大声がつんざいた。
「わあっ!」
「きゃああっ!」
 大声の不意打ちだったから、それはそれは驚いたのである。思わず足を止めてしまい、心臓が大きく脈打つのを感じながら左を見る。そこにいたのはやっぱり正宗だ。楽しそうに笑っている。
「正宗!」
「スリー!」
 その口が始めたのはいつものカウント、そしてその手にはランチャーが。ベイも装着して構えて準備は万端である。
「あっ、ツー!」
 わたしも慌てて応じる。ランチャーを取り出してベイを装着して構えて、相手に向ける。
「ワン!」
 終わり一カウントからは声が重なる。
「ゴー、シュー!」

「もー、正宗! 驚かせるのやめてよ! 心臓止まるかとおもった。」
「へへっ。だって、フェリスが驚くの見るの楽しいんだよ。こーんなびっくりしてさ。」
「もう……いきなりなんだから、驚くよ…」
 まだ心臓がどきどき言っている、のは、さきほどのバトルがとても白熱したものだったからだけど。わたしはほんとうにびっくりした。
 いきなりのバトルは構わない。むしろうれしい。だけどそれには驚かせる必要なんてないじゃないか。
 わたしは恨みがましく正宗を見つめた。それなのに正宗は楽しそうな笑顔のまま、わたしのことなんて構わないで尋ねてくるのだった。
「どうだ? 明日からジム来られそうか?」
 考えなしの発言はあいかわらずの正宗のものである。わたしは結局そんな正宗が好きだから、ほほえましくて笑うのだった。考えはなくても希望がある。
「明日からは難しいけど、この調子なら、来月からは行けそうだよ。楽しみだな!」
 わたしは良いお知らせをしたつもりだったけれど、正宗はつまらなそうに唇を尖らせた。
「なんだよ来月かよ。あー、そういうとこやっぱ契約なのかー。ほんとドライな国だなー。」
「そうだけど。正宗は、きらい?」
 正宗は即答した。
「ううん。トビーやゼオに会えた国だし。それに、おまえにも。」
 わたしはこんなことではもう動じなくなっていた。ただ会話の一貫として頷き答えた。
「うん……そうだね。でも、わたしもいつか日本へ行ってみたいな。」
 わたしの抱くおぼろげな夢は正宗にとっては名案だったみたいだった。正宗はぽんと手を鳴らして言う。
「そうだ、日本へ来いよ、フェリス! ベイも盛んだし、強いブレーダーがたくさんいるぜ。鋼銀河に盾神キョウヤに。毎日バトり放題だ!」
 そして正宗の言ったそれはわたしには輝かしいものとして映った。
「楽しそう! いいね、それ。すてきだね。行きたいなあ。」
「日本か…。今頃何やってっかなあ、銀河…。」
 正宗の興味はすぐに新しいものに移る。日本へ行く話になったかと思ったらすぐにこれだ。正宗は珍しくちょっと遠くを見てぽつりと呟いた。
 わたしはそれに応じて尋ねた。
「寂しい?」
「いや、ぜんぜん。次に会って倒してやるときが楽しみだぜ!」
 元気っぽく言う正宗を見てわたしは小さく笑った。
「………うそつき。」
 正宗はすぐに感情が表情に出るひとだったから、見ていればすぐ分かった。わたしはちょっといたずらするつもりで言った。
 わたしはもう正宗がわたしの知らないひとをこころに浮かべたって嫉妬して苦しくなったりはしない。確かに、ちょっとだけジェラシー感じることがあるのはほんとうだけれど。でもわたしはそんなところも含めて正宗が大好きなのだから。
「なんだよ、嘘なんかついてないぞ! あんなヤツの顔見なくて済んでせいせいすらあ。それにこっちにはみんながいるし!」
「うん、そうだね。」
 それに、正宗はちゃんとここに帰って来てくれたから、わたしはもう寂しくはないのだった。わたしの目の前に、今、こうして。
「なんだよその言い方! うるせーなあ、もう!」
「頷いただけなのに……。」
 せわしなく感情が動く正宗とは話していてとても楽しい。そのあともしばらく話していると、ちょっと前まで怒っていたのもどこかへいって、最後には笑顔で手を振って別れる場面になっていた。
「じゃーな、フェリス! 早くジム来いよー!」
「うん。またね正宗! トビーやゼオにもよろしく!」
 正宗が手を振るのをやめてもわたしはやめない。姿が見えなくなるまで見送って、わたしはようやく手を降ろした。
 正宗とバトルができてよかった。すっかり元気を取り戻せたみたいだ。
「さて。もうひと仕事!」
 わたしはぎゅっと拳を握った。まだまだがんばろうっと。