「フェリスは筋が良いから、きっとすぐに強くなるよ!」
 きれいな笑顔ときれいな言葉でそう断言してくれるのは、ジム一の実力者、トビーだ。
 トビーは明るくて誰にでも優しくて、何よりもベイが強いから、ジムのみんなの人気者だった。だからつまり、トビーはわたしにも優しくしてくれた。
「筋が良い……そうかな。」
 率直に言えばへたなわたしは、そう言われてもいまいち実感できない。けれどもそれはトビーの言葉だったから、単純に拒絶することもできないでいた。
「うん。きみはバトル中、ちゃんと場を見てるだろ。見ることはとても大切なことなんだ。確かに、技術やベイの補強とか、直接的な強化もそうだけれど。」
「……うん。わたし、技術が足りないって。」
 コーチに言われた。
「それはまだきみがここにきて日が浅いからだよ。すぐにみんなとの差を埋められるはずさ。」
 トビーはためらうことなくそう言ってのけてくれた。そうまで言い切られると、強い目で言われると、なんだかそんな気さえしてきてしまう。トビーの力だ。
「日が浅いわたしにも、トビーは、優しくしてくれるね。」
「そんなの関係ないさ。ぼくらは同じジムで練習する仲間だろう。一緒にがんばろう。」
「うん。ありがとう。」

 しばらくしてからわたしはまたトビーに声をかけた。思うことがあったのである。
「トビー。さっきの話だけど。」
「うん?」
「場を見る目が大切。それなら、ゼオも、きっとそうね! ゼオのベイを見る目はとてもすてきだもん。試合中も、そうでないときも。すごく真剣な目。」
 わたしはゼオのいっしょうけんめいなところをよく知っている。トビーや正宗にはちょっと及ばない(それでももちろんわたしよりは強い)ゼオだけど、ゼオは、すごくひたむきなのだ。
「あっ、でも、もちろん正宗も。特に、トビーやコーチに向かっているときの目がとてもすてき。」
 正宗は強い。ベイも、本人の気持ちも。ひたすらにまっすぐで、正直で、そんなところをわたしはすてきだと思うのだ。
 特に正宗は、自分より強い者を前にしたとき、逆境におかれたとき、そんな状況が信じられないくらいに強い目になる。
「……フェリス。きみは、ほんとうに目が良いね。」
「そう?」
 トビーに褒められると、なんだか照れくさい。
「興味本位で聞くけど、ぼくは、ぼくの目は、どう? すてきかな?」
「トビーは……」
 トビー。ジム一の実力者で、誰にでも、わたしにでも優しくて、みんなの人気者で正宗やゼオの友達。
 男の子なのに女の子みたいにきれいな顔立ちをしていて、わたしはどんな面でも敵わない。
「トビーは、いつもすてきだよ。こうしてわたしと話してくれるときも、バトルの最中も。とても強くて優しい目をしている。」
「……そうか…。ありがとう、フェリス。」
 トビーは小さくほほえんだ。


 ジムでの一番のライバルは、ゼオだ。それとともにゼオは、わたしに近い目線でわたしにアドバイスをしてくれる、大切なコーチでもある。
 ……ただ、ちょっとだけいじめっこだけれど。
「あれ、ゼオ。またシャドウシュートをしているの?」
「そういうフェリスこそ。」
 シャドウシュートはベイをセットしないでストリングを引く、ほかの競技でいうところの素振りみたいなものだ。シュートはバトルの最初であるからして、非常に重要なものである。その大切な練習だ。
「コーチに言われた。」
 基礎中の基礎だから、まだここに来て日が浅いわたしは、しょっちゅうコーチに言われてシャドウシュートの練習場に来ていた。
「お互いここが長いなあ。」
 ゼオのからかうような口ぶりにも慣れたものである。わたしは手は止めずにさらりと返した。
「わたしはまだジムに入って短いもん。ゼオのほうが長いよ。」
「へっ、まあな。いい加減やりすぎて、シュートの達人になりそうだぜ。」
「わたし、ゼオがシュートの勢いで正宗に負けたのを見たよ。」
「うるさいうるさーい! そう言うおまえは、おれに一回も勝ってないじゃねえかよ。」
 まったくそのとおりである。わたしは正宗やトビーにはもちろんゼオにも、実はジムのほかの誰にも一回も勝ったことがない。つまり、ベイバトルで勝利したことが一度もない。
 けれどもそんなの承知の上だ。始めたばかりで弱いのは当然なのだから、わたしは気にしていない。
「うん。そのとおりだね。でも、いつか必ず勝つ!」
「言うようになったじゃねえか。最初はこーんなびくびくしてたのに。」
 「こーんな」と共にゼオがよく分からない身振りをしてくれたけれど、やっぱりよく分からなかった。それはわたしのまねだったのだろうか。
「正宗のおかげだよ。わたし、正宗が構ってくれなかったら、きっともっとずっとびくびくしてたと思う。」
「…正宗なあ。あいつ、ジムん中で一番新入りだから、よけいフェリスに構うんだろうな。」
 正宗はいつもわたしに構ってくれた。朝も昼も夜もあいさつしてくれるし、お昼ご飯をひとりで食べていたら声をかけてくれるし、ひとりで手持ち無沙汰にしていたら競争を持ちかけてくれる。暗くておとなしくて引っ込み思案なわたしだったけれど、ベイブレードと正宗の前でなら、明るく振る舞うことができる気がしていた。ほんとうに正宗のおかげである。
 でもぜんぶじゃない。
「…ゼオも、ね。」
「ん?」
 ゼオが練習の手を止めたのでわたしも止めた。ゼオは目を丸くしてわたしを見ている。わたしはできるだけの笑顔でゼオを見た。
「ゼオやトビーもわたしに話しかけてくれて、それでわたし、今みたいにふつうに話せてる。ゼオのおかげだよ。」
「…………。」
「今、こんなに明るいのがうそみたい、信じられない。ベイがきっかけを作ってくれたんだね。ありがとう、ゼオ。」
 明らかなゼオからの返事はなかったけれど、確かにゼオがわたしの話を聞いてくれたのは分かったので、それ以上はわたしは求めなかった。あまりおしゃべりばかりしていてコーチに怒られるのもつらいし、練習を止めてばかりいるのもそもそもだめなので、わたしは練習を続けた。
 ゼオの手はまだ止まっている。
「……肘。」
「へ?」
 あるときふいにゼオが言葉を発した。わたしは少し驚いてゼオを見た。
「肘、曲がってるぞ!」
 言ってすぐにゼオはそっぽを向いてしまったので、その表情は分からない。練習を再開したゼオの隣でわたしは慌てて腕をぴんと伸ばした。
「あっ。ありがとう、ゼオ!」


 わたしはジムの中でも飛び抜けて弱いほうだったけれど、強いみんなと戦って上を目指すこと、オセロットといっしょに戦うことは、とても楽しかった。
 オセロット、というのは、わたしの拾ったベイの名前である。
 オセロットはわたしの大切な相棒だ。
 いっしょにがんばろうね、オセロット。このジムで、かけがえのない仲間たちと一緒に。