「今日からオレたち仲間だな! いっしょにがんばろうぜ!」

 そして正宗は日本へ行った。トビーの、ゼオの、正宗の夢を叶えるために。
 でもわたしは正宗がいなくて寂しかった。
 正宗がいたからがんばり始めたわたしは正宗がいないからがんばれない。
 寂しくて。
 悲しくて。
 落ち込んで落ち込んで落ち込んで。
 やっと少しだけ持ち上がったわたしのこころは正宗の言葉を見つけた。
 いっしょにがんばろうぜ。
 あなたがいないというのに、どうやっていっしょにがんばると言うの。がんばれないよ、正宗。がんばれないよ、オセロット。
「(オセロット……)」
 わたしのこころの隅っこに、死んだ生き物の色したベイが触れる。
 うそだ、ほんとうはうそだ。わたしががんばり始めたのは正宗がいたからじゃない、オセロットに出会ったからだ。わたしは自分の意志でオセロットを拾い、ジムの扉の前に立った。
 ただ、それを開けてくれたのが、正宗というだけで。ほんとうはすべてわたしの意志で決めたことなのだ。
 わたしはただ、悲しみで心が束縛されて何もできないのを、すべて正宗のせいにしているだけ。弱いわたしが何もかもいけないのだ。
「正宗、正宗……」
 けれどもわたしが現実に近付いたのはほんの短いあいだだけだった。こころの中がすぐに、遠くへ行ってしまった大好きな人への思いで満たされる。その思いは利己的で、非発展的で、激しく熱く燃えるのに、いつまで経ってもくたびれることがない。
 涙が枯れても心は泣くことをやめない。嗚咽ばかり漏れてわたしの喉も枯れてしまった。

 ジムには怖くて行けなかった。正宗のいないダンジョンジムを見るのが怖かった。正宗がいなくなってしまったのだという現実を突きつけられるようで。
 だからわたしは家で過ごした。前みたいに無意味に。無意義に。
 ここ最近は家を空けることの多かったわたしがここのところはずっと家にいるのを怪しんで、何があったのかと弟たちに質問された。わたしは適当に笑ってごまかした。理由を口にするのもおぞましい。
 ベイのなくなった一日は恐ろしく長かった。日が昇って落ちるまで、すべてがスローモーションだ。


 長い一日を過ごすうちで、いつしかゼオに会った。
 ゼオがHDアカデミーに引き抜かれて、これからもうジムには来なくなるのだという。
 これでわたしがジムに行く理由はすべてなくなった。

「(なくなっ、た?)」
 あるときわたしの心は冷めた。ひとつ、ほのかな思いがわたしを揺する。
「(ほんとうになくなってしまったの? ぜんぶ? 何もかも? じゃあ、わたしはあの三人に会うためだけにジムに通っていたっていうの? 何でわたしはジムに通っていたの?)」
 私のテーブルの上には、いつも、いつでも、いつまでも、オセロットが置いてある。立派なケースなんて持っていないからはだかのまま、その山猫の牙は剥き出しで、テーブルの上に置いてある。そしてその山猫の目でわたしをじっと見ている。
「(オセロット。)」
 わたしが出会ってわたしが拾ってわたしが使ったわたしのベイ。
 ベイは星座をモチーフにして作られることが多いんだって。じゃあわたしのオセロットはやまねこ座なのかな、とずっと思っていたけれど、どうやらほんとうのやまねこ座のベイは他にあるらしかった。
 空にきらきらと輝く星座にはなれなかったオセロット。なんだか寂しい、かわいそうだ。出会ったときでさえも、道ばたに捨てられていたオセロットは、星座というよりはただの捨て猫だった(だからわたしはオセロットに惹かれたのかもしれない)。
 でもわたしのあいぼうはあいぼうだ。ずっといっしょに戦ってきた。
 ナンバーワンになれなくても、一番星になれなくても、それでも、少しでも輝きたくて。
 わたしはずっとオセロットに触っていない。ただ机の上に放置しているだけ。
 山猫の牙も爪も研がれずに、ただそこにあるだけ。
「(ほんとうにそれでいいの?)」
 わたしはオセロットと向き合って考えた。これで終わりにしてしまうの?
 わたしがベイを好きな気持ちはここで終わり? 仲間がいなくなってしまったからこれでおしまい?

「(…そんなわけないよね。)」
 そんなわけない。そんなわけない。
 わたしはベイがやりたくて、ベイをやるあの声に憧れて、ジムの扉の前に立ったのだ。
 正宗はベイで戦うために日本に行った。トビーはベイをやっているときに病気で倒れた。ゼオはベイで強くなるためにHDアカデミーに移籍した。
 わたしはベイがやりたい。やりたい。強くなりたい。
 そしてまた、
「(そしてまた、みんなとバトルがしたい! 正宗ともトビーともゼオとも。ジムのみんなとも。)」

 わたしはオセロットをひっつかんで家を飛び出した。弟たちがわたしに何か声をかけるのが聞こえたけど、わたしは止まれなかった。