| 「…はっ、はっ、はっ、…」 急がなくちゃ、急がなくちゃ! わたしは下り坂を落ちるように走った。スピードがどんどん大きくなって、左右の建物が風のようにわたしの横を過ぎていく。 ベイの練習をしていたら、いつのまにか時間が経ってしまっていた。急がなければビックバンブレーダーズの中継に間に合わない! 正宗が日本代表として世界大会に臨むということは、ジムでスティールコーチから聞いた。ちなみに久しぶりにジムに顔を出したわたしは、コーチからは怒られ、それでもコーチを含めたジムのみんなに歓迎された。うれしかった。 そもそもわたしは世界大会が行われるということすら知らなかったので、驚きはそこから始まってたくさん続いた。 事情は知らないけれど、正宗は日本の代表選抜大会においてすばらしい成績を収め、代表として選ばれたらしい。 そのときのわたしの感動といったらなかった。日本の強いブレーダーを倒しに行った正宗が、代表となって世界で戦うようになるなんて! 日本代表にはあの鋼銀河も選ばれたらしい。つまり正宗は、正宗が倒しに行った相手と仲間になったのである。 それを知ったときわたしは笑ってしまった。じつに正宗らしい。 どんなところでもまっすぐでいきいきとして明るい正宗は、すぐに友達を作ってしまう。それが日本でも発揮されたのだろう。 それからわたしは、世界大会の試合があり中継されるごとにジムのテレビにかじりついた。世界レベルのバトルを見ることは勉強になり、自分自身の向上にもつながる。コーチもそれを快く許してくれた。 第一回戦。対中国。 「(正宗だ! 正宗だ! ほんものだ! ほんとうに世界代表になったんだ!! 久しぶり正宗ー! 元気だった? なんでそんなにぼろぼろなの!? ………しばらく見ないまに、強い目になったなあ。きっとたくさん練習したんだろうね。正宗は努力家だもんね。 ぼろぼろなのはきっと、直前まで練習してたからだろうな。うん。きっとそう。正宗は偉いね。変わらないね。 それにしても、何? 相手のひと。チャウシン選手。なんだか派手なかっこうをして。目がいやな感じ。確かにちょっとかっこいいかもしれないけど、がんばる正宗のほうが百倍、千倍、万倍かっこいいもん! あんなのぱぱっと倒しちゃえ、正宗!)」 「(すっ…ごい! 正宗すごい! 相手のひとまで熱くしちゃうなんて! すごいすごい! チャウシン選手、あんなにふまじめだったのに。やっぱりベイが大好きだったんだ。良い相手とバトれてよかったね! はー、すごく熱いバトルだった。いいなあ。わたしもあんなバトルがやりたいなあ。)」 第二回戦。対ロシア。 「(正宗がいない! いったいどうしたの!? なんで!? かぜ引いた? 事故しちゃった? 練習しすぎて遅刻した!? 初戦は鋼銀河選手か……。前回のときも思ったけど、やっぱりすごいな。なにかカリスマみたいなものを感じるよ。わたしもこのひととバトりたい。あんなすごいバトルがしたい。)」 「(あっ……正宗だ! 無事でよかった。ほんとうによかった! 今までどうしてたんだろう。練習しすぎてバトルそのものを逃すなんてこと正宗がやるはずないもの、きっと何かがあったのよね。大変なことだったのかな。でも、正宗、元気そう。よかった。 二回戦も難なく突破かあ。日本チームは正宗だけじゃなくみんなが強いね。)」 第三回戦。対アフリカ。 「(正宗が、負けた………。 トビーに負けたのを見たことはあるけれど、他のひとには初めてだ。確かにナイル選手は強かったもの。技のキレ、ベイの操作の正確性、すばらしいものがあるけど、何よりも本人が強い。気高い心が冷静に勝利を求めている。 でも、実力の差なんてないに等しい。パワーも瞬発力も正宗のほうがずっと上だ。正宗が負けたのはそんなものが理由じゃない。正宗が負けたのは……。 トビーも言ってた。ベイバトルで勝ち負けを決めるのは単純な技量の差じゃないって。 じゃあ正宗に気持ちが足りなかったということ? ううんそんなわけない。正宗の勝利への思いはほんものだもの。気持ちで正宗が負けるわけない。 でも正宗は負けた。 正宗が。 正宗………。落ち込んでるんじゃないかな。だいじょうぶかなあ。 正宗…。)」 「(勝った! 正宗が勝った! ほらやっぱり。正宗は強いんだから! 正宗が負けるはずないの。最後にはちゃんと勝利をつかむ、さすが正宗! おめでとう、ほんとうにおめでとう! …でも、タッグバトルか。それも、鋼銀河との。 息、ぴったりだったね。相手は鋼銀河なのに。 すっかり正宗は日本チームの一員だね。正宗は日本人だから、日本のほうが良いの?)」 ここアメリカからは、HDアカデミーというブレーダー養成機関所属のスターブレイカーというチームが出場している。 アメリカと日本はブロックが違うから、両国が試合をするには決勝まで進まなければならない。 決勝戦。それはつまり、世界のナンバーワンを決める戦いである。 今までずっとそれはなんだか現実味のないものとしてわたしの中にあったが、世界大会が進行するにつれ、すなわち決勝戦が近づくにつれ、どちらも勝ち進んでいることを思うと、もしかしたら、と、わたしは可能性を夢見るようになったのであった。 正宗のいる日本が負けるわけない。ゼオのいるアメリカが負けるわけない。 それなら、それなら。大会が決勝まで進んだあかつきには。 第四回戦。対ユーロ。 「(また正宗が初戦だ! うんうんそうだよね。強い正宗は最初にチームに勝利をもたらして、先を切り開くのだ! それにしても相手のゲオルグ選手は強そう。これまでどれだけ鍛えてきたかが、見るだけでありありと分かるよ。そしてそれがどれだけの力となるかがちょっと予想つかない。 相手はてごわいね。でも正宗ならきっとだいじょうぶだよ! がんばれ正宗!)」 「(…また負けちゃった。 正宗がこうも負けるなんて、信じられない。それともそれが世界というやつなのか。わたしの目が世界を見られてなかったのか。そういえばわたしはあんまり世界を知らないや。でもわたしは正宗のことはよく知っている。正宗がほんとうにがんばりやさんで、すごくすごくすごく強いってことは。 …負けちゃったけど。 でも前の敗北とは違う。二人とも力を全力で出し切った、その結果として正宗に負けがついているだけ。ほんとうに良い勝負だったよ。 それに、ゲオルグ選手の渾身の必殺転技を正宗は破ったんだもん! ちょっと持久力がカプリコーネのほうに歩があっただけでさ。正宗は試合には負けても勝負には勝ったの! ……なんてね。そういうのもぜーんぶひっくるめて“勝負”なんだけどさ。だから正宗は負けちゃったんだけどさ。 でも正宗、強くなったよ。世界大会が始まったころとはなんだか違う。 正宗とバトルがしたいなあ。あなたがいなくなってからたくさんたくさん練習して、わたしだって強くなったんだよ。強くなったわたしを見てよ。 …正宗に会いたいなあ。寂しいなあ。正宗、今どこにいるの? 会いたいよ。またわたしとバトルしてよ。わたしは弱いねって言ってよ。もう弱くないから。わたしは強くなったから。)」 このあたりでついにわたしの貯金がそこをついて、わたしはジムへ通えなくなった。 みんなは気にするなとわたしに言ってコーチを責めたけど、契約は契約、払うものがないなら通えない。わたしは泣く泣くあきらめた。 それでもベイをやれるのはジムだけではなかったから、わたしはもうオセロットをテーブルの上で寝かせるようなことはなかった。たまには町のベイパークでオーエンたちとバトルをした。 ただ、世界大会の中継を見られなくなったのは困った。わたしの家にはテレビなんてない。 それでもわたしはどうしてもテレビででも正宗に会いたかったから、テレビを探した。ビックバンブレーダーズが中継される、わたしでも見ることのできるテレビを。 決勝リーグ第一回戦。対ブラジル。 「(ふう、何とか間に合った。ちょっと始まっちゃってるけど、まだセーフだよね、セーフ。 なんだかルールが違うみたい? 勝ち抜き戦? あっ、サブの天童遊選手が下がって、次は…… 正宗! 正宗! まさむね…… もーーーっ、なによあの女!! なにやってるのよ!! 正宗を惑わさないでよ!! 正宗、だめよ、あんなのに引っかかっちゃ!! …あっ、よかった、正宗は正宗だーっ! うんうん、そうだよね。そのままでいてね、正宗。)」 「(正宗は正宗だった…………。 もーっ、ばかばかばか! 正宗のばか! 勝負の最中に目を閉じるなんて、ばかだよ!! まあ、それが、正宗らしいっていえば、そうなんだけど…もう……。 ふつうに戦えば、正宗がぜったい勝つのに。悔しい! それにしても、ガンガンギャラクシーはだいじょうぶかな。ちょっと心配だな。天童遊選手の調子もなんだか悪そうだったし。いじわるそうなブラジルチームの策略にはまってしまった感じがする。)」 そしてガンガンギャラクシーが勝った。 試合終了に盛り上がり沸き上がる歓声のただ中で、わたしは大きなモニターを見上げたまま立ち尽くした。 次は決勝戦である。決戦の舞台はここアメリカだ。 だから。つまり。 「(正宗が帰ってくる…!)」 |